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写本師の穴蔵

本の感想などを書き溜めています。

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「田舎の刑事の趣味とお仕事」滝田務雄




脱力系ミステリ短編集。
のんびりとした田舎で、わさび盗難やらカラス騒動など、のんびりとした事件が起こる。
主役は黒川鈴木というどっちも名字のような名前を持つ刑事だが、別に黒川太郎とか宏とかでもよかった気はする。
あくの強い登場人物たちの掛け合いが持ち味で、とくに回を重ねるごとに存在感を増す黒川の妻がいい味を出している。
個人的には、わさび盗難事件の表題作が一番面白く読めた。



「クローバー・レイン」大崎梢





若手編集者が一冊の本を出すために奮闘する。

老舗として傲慢さを誇る千石社の面々を、彰彦がひとつひとつ攻略していく様に引き込まれる。
はじめは孤軍奮闘、でもその情熱が徐々に味方を増やし、ついには大物をも動かす、というのはやっぱり痛快だ。
同時に、本一冊を出すために乗り越えなければならない障壁の多さに唸ってしまう。
本屋で何気なく手にする本、それにどれほどの手がかかっているかは、あまり考えたことがなかったなあ。

彰彦の冬実への想いはもっと抑え目の方が好みだ。なくても成立するし。
最後のシーンにはほろりと来た。


「スキップ」北村薫





17歳の真理子が目覚めると、42歳になっていた。

心は17歳、身体は42歳の主人公。
いくら都合のいいサポートがあるとは言え、ちょっと前まで学生だった17歳にしては仕事をうまく進めすぎている気がする。
まあ、「器」である42歳の経験が無意識のうちに影響したのかなあ、と考えておこう。
いくつかの伏線のような小さな謎があるが、答えが明かされずに雰囲気作りで終わってしまったことにもやもやして、残念。
このように気になってしまう部分はいくつかあるが、文章がとても繊細でみずみずしい。
丁寧に綴られる文体が、永遠に失われてしまった大切なものを浮き彫りにしてくれる。


「ビブリア古書堂の事件手帖5―栞子さんと繋がりの時」三上延




前作の告白に返事が返されるまでの連作短編。

いわゆるミステリシリーズでは主要キャラの関係に大きな変化は起こらないことが多いが、ビブリアシリーズは二人の関係に焦点を当てているためか、わずか五巻で大きく進展したものだ。


智恵子にとっては、家族の人生も、おそらくは自分の人生すらも一つの物語に過ぎないのだろう。
自分の人生という物語を紡ぎながら、そこから半分抜け出し、一つ上の次元から自分の物語を俯瞰するという感じだろうか。
想像してみると、少し孤独だ。だから栞子を誘うのかもしれない。

栞子も智恵子に似た人間だが、大輔の出した答えには相当安堵しただろう。
まあ、子供ができたらそう簡単にはいかなくなると思うけど。
それとも、英才教育を受けたサラブレッドが生まれたなら、家族皆で旅に出るのかな?





「ビブリア古書堂の事件手帖4―栞子さんと二つの顔」三上延





江戸川乱歩のコレクションをめぐる長編。

シリーズのキーパーソン、栞子の母もついに登場した。
いくつもあるさりげない伏線と、それに基づいた二転三転する展開が面白かった。
不器用ながらもしっかり進んでいく栞子と大輔の関係も微笑ましい。

智恵子にとって、本質的に自分と似ており、古書という趣味に同じくらいの情熱を持つ娘、栞子は自分の分身のようなものなのだろう。
「よるの夢」に生きる智恵子にとっては、栞子を「うつし世」にとどめる大輔がうとましい存在になってしまった。
個人的には「よるの夢」の世界には非常に魅力を感じるし、そこで生きる母娘、というのも蠱惑的だが、そんな展開にはならないんだろうなあ。
幻想小説以外はたいてい「うつし世」を肯定するむきがある。
栞子はたとえ「よるの夢」に魅かれても、最終的には「うつし世」に戻ってくるのだろう。



「月と炎の戦記」森岡浩之




勝気な少女カエデとひねくれた神ツクヨミ、皮肉屋大兎ツユネブリのトリオ漫才的な掛け合いが楽しい作品。

神を呼ぶための主な方法が罵倒、というのもユニーク。
決着のつけ方、ラストの締め方も好み。


「暗黒童話」乙一





事故で記憶と左眼を失った少女。眼球を移植されるが、その左眼はさまざまな映像を映しはじめて…

かなりグロテスクな情景がたくさん出てくるが、乙一氏独特の淡々とした文体や、「三木に傷つけられた生物は痛みを感じず、まどろむような状態になる」という設定のせいか、生々しさを感じさせず、背景の装飾にとどまっている。
最初は孤独でうつむいていた「私」が徐々に顔をあげ、しっかりと前に進んでいく様子が胸に沁みる。


「夏と花火と私の死体」乙一





異色の視点で語られる「夏と花火と私の死体」と、住み込みで働いている家の謎を探る「優子」の二編を収録。


「夏と花火と私の死体」
死体である"私"がの一人称視点という、異色の物語。これがデビュー作であるからすごい。
殺されてしまった少女が、彼女の死体を隠そうとする兄妹の行動を語るのだが、非常に語り口が淡々としている。
自分を殺した相手だというのに、憎しみだとか怨みなどを感じさせず、ただ超然と語るのだ。
その一方で、淡い思いを抱いていた相手の目に自分の裸足が触れることを恥ずかしがるという、少女としての感覚を見せもする。
幻想的で不思議な味わいが忘れられない作品。


「優子」
住み込みで働く使用人の清音は、姿を見せない奥様に疑問を持つ。
非常に上手い構成で、あっさり騙された。
さりげなく張られた伏線と、全体を覆う雰囲気がいい。




「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」太田紫織




骨好きのお嬢様が謎を解くミステリ短編集。

文章が読みやすく、すんなり頭に入ってくるのでさくさく読める。
死体から骨を取り出す描写や、北海道の食事描写などは読み応えがあった。
正太郎はだいぶ感受性が豊かで、ドライな櫻子との組み合わせが面白い。
全体的なストーリーの行く末は決まっているような描写があるので、シリーズの先行きも気になるところ。







「ようこそ授賞式の夕べに」大崎梢





成風堂書店シリーズと出版社営業シリーズのコラボレーション。
舞台は本屋大賞ならぬ書店大賞授賞式ということで、お祭り騒ぎな本だった。
多絵と井辻がそれぞれの方向から事件を追い、終盤で邂逅する。
真犯人がちょっと雑な扱いだったとは思うが、にぎやかで楽しめた。





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管理者:dusk

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