
ジプシーに伝わる昔話の短編集。
「きりの国の王女」
きりの王のむすめを名乗る美しい金髪の少女が、愛を知りたいとジプシーのもとを訪れ結婚する。
夫婦の間には金髪のこどもがたくさん生まれ、幸せな暮らしをしていた。ところが父である王が怒り、娘の夫を世界のはてに閉じ込め、娘を連れ帰る。金髪のこども達は大きくなって結婚し、金髪の人が世界に増えたのである。
金髪の人が愛を知らなかったり、王がむすめに酷い仕打ちをしたりするなどするところに、ジプシーがアングロ・サクソン人を冷酷と捉えていた形跡を感じる。
「ひつじかいのバクレングロ」
ひつじをうっかり逃がしたバクレングロは村から逃げ、たまたま会ったいいウルマ(魔法使い?)の娘を取り戻す旅に出る。
三つの仕事を言いつけられたり、その解決法を囚われの娘が知っていたりと、昔話の王道展開。わるいウルマをその持ち物で倒すのもいい。
「雨ごいの名人」
雨を降らすと言って村人を騙すおじいさんを、さらにキツネが騙す話。
散々な目に合うおじいさんが笑える。
「七人の兄弟と悪魔」
貧乏な兄弟を悪魔が金持ちにする。そして案の定、「妹はけっして結婚しない」という条件を破り、妹は金と銀しか食べない子ヤギを生む。兄弟はどんどん貧乏になるが、ある晩子ヤギの後をつけると解決法をひとりごちていた。
この話にもきりの王が出てくるが、最初の話との繋がりはなさそうだ。
「魔法の小鳥」
小鳥が大好きなジプシーが巣箱を作ったり、すぐ逃げられる鳥かごを作ったりするがもちろん売れない。ひもじい思いをしていると、通りがかりのおじいさんが美しい小鳥をくれた。それは魔法の小鳥で、なんでも願いを叶えてくれるのだ。
小鳥を大事にしたので神様から褒美をもらう話。空飛ぶ鳥とジプシーの守り神が同一であり、ジプシーは自由に飛ぶ鳥と自身を同一視してたことが感じられる。
「すてられた子どもたち」
ジプシー版ヘンゼルとグレーテル。お菓子の家ではなく人食い竜の家に泊まり、竜の宝物を盗んで幸せに暮らす。
父親が後妻に弱すぎる……。
「悪魔をだましたジプシー」
十三人のジプシーが沙漠で迷い、悪魔の家に泊まる。ご馳走が出てくるが、出ようとするとひとりだけ家に閉じ込められてしまう。十二人のジプシーはまた沙漠を彷徨い、もう一度悪魔の家の近くに来てしまい……。
十三人はちょっと多いというか、延々繰り返す間になにも対策しなかったのかなと思ってしまう。三人くらいでよかったんじゃないかな。
「太陽の王の三本の金髪」
情け知らずの王が貧しいジプシーの家に泊まる。その夜赤ん坊が生まれ、王は三人の白いきものの女が赤ん坊に贈り物をするところを目撃する。赤ん坊が王の娘と結婚すると言われ、激怒した王はその子を殺すように画策するが、川に流された赤ん坊は漁師に拾われすくすく育つ。成長した赤ん坊、ナーナシは王と再会し、白いきものの女の計らいにより王女と結婚する。王は怒り、ナーナシに太陽の王の頭から金髪を三本抜くように命ずる。旅に出たナーナシはさらに三つの依頼を受け、太陽の王の家に辿り着く。実は白いきものの女は太陽の王の母であり、ナーナシは無事に金髪と依頼の答えを得て城に帰る。
王道展開の昔話冒険譚で面白かった。
太陽の王が朝は赤ん坊の姿で昼に大人になり、夕方はおじいさんという設定が好き。
「魔法の箱」
子どものいないジプシーの夫婦が、ブナの木の精の力で息子を授かる。成長した息子、バフタウォはブナの精にもらった箱を持ち旅に出る。旅の途中、「まだこの世にないようなものを作って見せたら褒美を取らせる」というおふれを森の王がだしたと聞いて行ってみることに……。
実はバイオリン誕生譚だった、というオチに驚いた。四角い箱からは連想できなかったので。
「ヒキガエルとまずしいやもめ」
ひとりぐらしの貧しいやもめの元にヒキガエルが来て毎日金貨を千枚くれることになった。やもめのいじわるな三人娘がそれを知り、ヒキガエルをさらうが散々な目に合う。
いわゆる善人と悪人の話。
最後、若返ったやもめがヒキガエルと旅に出るのが好き。