
山奥の温泉宿に住む少女、小夜。
祖母から山んばの娘と聞かされて育つ彼女は不思議な体験をする。
「花豆の煮えるまで」
小夜の両親の馴れ初め話。
たもとに花豆を入れて、豆畑の幻影を見せるところが風情がある。しかも「こんな豆の畑を、いっしょにつくりましょう」と言うのだから情熱的だ。
里心がついて風になる、というのは産後の肥立ちが悪かった表現なんだろうが、児童にはわからないだろうからうまい。
「風になって」
小夜が風になって山を駆ける。
鹿の結婚式に百合の香りを届けるというのが牧歌的で好き。
そこから一転山火事になるが、火が赤いリボンやスカーフで表現されるのも良い。
「湯の花」
身体の悪いおじいさんのために湯の花を届ける小夜。山道の途中で家を建てるような音を聞く。
おじいさんのためだけに家を建てるてんぐ、すごい優しい。おじいさんと昔何かあったのだろうか。
「紅葉の頃」
お客さんに部屋を譲り納戸で寝る小夜。
機(はた)で紅葉を織るというのが幻想的で良い。川に流れてきた紅葉をひろって裏返すと山のうさぎの手紙が書いてある、というくだりも好き。
「小夜と鬼の子」
山で迷った小夜は鬼の子と出会う。
両親を亡くしてるのにひとりで法事を開く鬼の子に目頭が熱くなる。
小夜が年齢を偽り、最後に鬼の子が姿を見せなくなるのが、小夜の成長を暗示し、次話への布石にもなっている。
「大きな朴の木」
小夜の父に親しい女性が出来る。小夜にも特別綺麗なリボンをくれるなどして関係は良好だ。その女性が新しい母になるのではないかと思った小夜は、風になった母に会いたくなるが……。
寂寥感のただよう最終話。
小夜は嘘を吐き、不思議な世界から離れて、新しい母のいる現実世界に軸を移す。それは死んだ母からの巣立ち、そして成長の暗喩だ。
大人としては納得の結末だが、子どもの頃に読んだらすごく寂しく思ったろう。