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写本師の穴蔵

本の感想などを書き溜めています。

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「永遠の森 博物館惑星」菅浩江




地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館を舞台に、データベースと直接接続した学芸員が「美しさ」を追求する連作短編集。
「享ける形の手」、「永遠の森」、「嘘つきな人魚」、「きらきら星」が好き。



「天上の調べ聞きうる者」
無名の画家が描いた抽象画を、辛口の美術評論家が「天上の調べだ」と絶賛し、脳神経科の患者を虜にする。
一般人にも他の美術専門家にも理解できない抽象画の謎を田代が探る。
理論で推し測れない究極の美、とはどんなものか…
最初の短編のためか世界観をさらっと説明してコンパクトにまとまっている。
そのため田代が出した結論も深く考えずに受け止めたが、最終話まで読んでから読み直すとまた感慨深い。

「この子はだあれ」
人類学者の夫婦が、骨董市で見つけた人形の名前探しを依頼する。
人形の謎めいた表情にこめられた意味が重い。
名前というのはただ単に個体識別の記号だけではなく、そのものの本質、取りまく人の想いなどを背負い、表現した究極の単語になるのだろう。

「夏衣の雪」
笛の襲名披露イベントで使われる予定の着物に問題が起こる。
新家元の兄は、襲名披露に何やら複雑な想いがあるらしいが…
襲名披露で演奏される笛の描写が素敵。

「享ける形の手」
天分の才を持ち、かつては世界の頂点に立った女性舞踏家の引退公演。
本能のままに踊ることで賞賛を浴びたシーターだが、利益を求める取り巻き達が映像加工を始め、観客が見る自分と理想の自分の乖離に苦しむ。
真摯なファンであるロブとの対話で語られる彼女の半生とダンスにかける情熱が鮮烈。
観客の視線に苦しみ、それに踊りが影響されることを拒絶するシーター。
そんな彼女に語りかけるロブの言葉が本当にいい。
ラストの舞踏の描写は長くはないが、その美しさは存分に伝わってくる。
ちなみにタイトルの「享ける」とは、天から授かることを意味する。
その「享ける形」が「捧げる仕草」と同じものだ、という文章が心に残る。
シーターの踊りは、自分の中にある神と観客から享け、それを神と観客に捧げているものなのだ。
正直、この一編だけでもこの本を読む価値があると思う。

「抱擁」
新バージョンのインターフェースを鼻にかける生意気な新人や、各部署の調停に追われてじっくり美を鑑賞できない自分に悩む田代。
一方、旧方式の直接接続者であるオジャカンガスは、かつて体験した至上の美に包まれる至福をもう一度味わおうと<アフロディーテ>にやってくる。
圧倒される美に包まれる肌感覚…それはもう、とんでもない領域なのだろう。
どれほど言葉を尽くそうとも、それを一掃してしまうような美しさ…味わってみたいものだ。

「永遠の森」
新人マシューが、盗作疑惑のあるバイオ・クロック(時間経過による変化を楽しむミニチュア)とオルゴール人形の展示を企画する。
アダムが作った仕掛けと、それに込められた想いがとても切ない。
作中最もロマンチックな作品。
野心家故に新技術の情動記録にこだわるマシューの青さはさておき、情動記録という技術は素直にうらやましい。
私がこうやって感想を書き綴っているのも、少しでも本を読んだ時の気持ちを残そうとしてのことなのだが、文字で心の動きを残し、あとあと追体験するのはものすごく難しい。

「嘘つきな人魚」
<アフロディーテ>の海にあった人魚の像を探す少年。その人魚を作った造形家ラリーサは、自分がもう本物を造り出せないのではないかと悩んでいた。
本物を造り出そうとする情熱と、自分の身体を失ったハンドメイド作家の苦悩が、少年の純粋な感動で昇華していく様が素敵。

「きらきら星」
ある小惑星で、未知の植物の種子と彩色片が発見された。
そこにあったはずのものが無くなってしまった空隙が、よりその素晴らしさを強調するというのはよくある話だが、やっぱり面白い。
図形学者が形の完璧さや無駄の無さに感じる美、どこかの知性体の黄金律へのこだわりなど、多角的な視点で美を表現しているところも好き。

「ラヴ・ソング」
短編を通して触れられてきた、かなりの歴史を持つ逸品のピアノをめぐる作品。
美しさ、とは何か、それをテーマとしていろいろな切り口で書いてきたこの本だが、結論はやはりこのラストシーンに収束されるのだろう。
理論も解析も超え、ただ誰かに「綺麗ね」と呟かせ、幸せな気分にさせる「何か」。
そしてそれを受けとめる人々の中に、至上の美が生まれるのだ。






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