



自衛隊の潜水艦を舞台に繰り広げられる、熱い男たちの物語。
専門用語が多くて少々とっつきにくい文章ではあるが、登場人物たちが悩み、苦しみながらも自らの信念に従い闘う姿に、ページをめくる手も速まる。
とにかく魅力的な登場人物が多いのだ。
なんといっても仙石先任伍長の熱い行動が素晴らしい。
時には迷いながらも、絶望的な状況の中で必死に信念を貫き、果敢に行動する…。
「筆だ。もらった筆を忘れてきちまった」
忘れた筆とは、如月と培った絆であり、彼を信じきれなかった自分の弱さでもあり…
この台詞を残して<<いそかぜ>>に戻る姿にはただしびれた。
戦闘後、死に物狂いで手旗信号を送る姿にも胸が熱くなる。
特殊な生い立ち、職務故に感情を閉ざした如月行が、菊政や田所、仙石との交流を経てゆっくりと心を開いていく様もいい。
丁寧に描かれる心の揺らぎが、如月の覆い隠されていた純粋さを伝えてくる。
自分の弱さを受け止め、成長していく姿は凛々しい。
復讐を誓うも、鬼となりきれなかった宮津艦長の姿もいい。
息子の死を背負い、苦悩し、人としての弱さにあがきながら闘う姿はとても人間らしい。
脇役たちも、主役三人に負けず劣らず魅力的だ。
復讐の機会をもちながら、人命救助のために私怨を捨てた阿久津や、宮津に最後まで忠義を尽くす竹中副長が居たからこそ、宮津は人の心を捨てずにすんだのだろう。
ただ、ジョンヒの扱いはどうなんだろうかとも思う。
如月とジョンヒの感応シーンだけ妙に浮いてしまっているというか、正直蛇足に感じる。
非常に技能の高い工作員としての描かれ方は良かっただけに残念だ。
闘いは海上だけが舞台ではない。
自らの保身を優先する官僚や政治家たちを相手に会議室で闘う渥美と、彼に無茶ぶりされながらサポートする瀬戸の奮闘も熱かった。
不器用な如月に垣間見える人間らしさが仙石の強い信念を呼び覚まし、それが伝わって如月が変わっていく。
仙石と如月の強さが苦悩していた宮津を導き、物語は終結する。
終章で護衛艦に手を振る仙石と如月の姿が序章と相まって、仙石と如月、宮津の絆を象徴するような締めくくりだった。