

不慮の事故で火星に残された宇宙飛行士のサバイバル。
使える時間やアイテムが限られる中、頭を絞って次々ふりかかる難題と取り組んでいく。
極限状態の中、非常に重苦しい物語としても書けただろうが、この小説はウィットに溢れていて読みやすい。
これは主人公マーク・ワトニーが生来のムード・メイカーであり、科学者として物事を解決する思考回路をもっていて、厳しい訓練を受けた宇宙飛行士であるからだろう。
さらに、ワトニーのパートのほとんどがログという形で書かれているのが大きい。
脇役であるNASAや<ヘルメス>メンバーは時折その心情が描かれるが、ワトニーの心情はログや通信記録といった形で、リアルタイムで書かれているものはほとんどない。
そのためにワトニーがジョークめかして書いている箇所が目立ち、重苦しさが軽減されているのだろう。
これが普通の小説のように書かれていたら、かなり違った物語になったはずだ。
だが、数少ないからこそ、ログ以外で描かれているワトニーの姿が印象深い。
なかでもアクシデント多発の長距離ドライブを終え、ついにMAVにたどり着いたワトニーの喜びようが、シンプルに書かれているが本当にいい。
そして、最後のログの締めくくり…この短い一文に、ワトニーの想いがぐっと詰まっている。