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写本師の穴蔵

本の感想などを書き溜めています。

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「二人がここにいる不思議」レイ・ブラッドベリ(伊藤典夫)



短編集。

「生涯に一度の夜」
旅の途中、春の自然の中で一夜を過ごす物語。描写が素敵。

「トインビー・コンベクター」
百年前にタイムトラベルで未来を見てきた老人が、百年後に真相を明かす。優しく希望のある物語。

「トラップドア」
十年以上住んでいた古い家に、屋根裏へ続く揚げ戸があることに突然気付く。怖い話。

「オリエント急行、北へ」
列車旅の途中で出会った老婦人と幽霊。人々が神秘的なものを信じなければ消えてしまう幽霊を支えようと、老婦人は奮闘する。最後にふたりで旅立つのが好き。

「十月の西」
魂だけになった四人の男が祖父の頭に住み着くドタバタ騒動。妻の若い頃の思い出がぎっしりと詰まっている場面がいい。

「最後のサーカス」
サーカスの興奮と終わったあとの寂寥感。夏休みの最後の一日みたいな雰囲気。

「ローレル・アンド・ハーディ恋愛騒動」
ひとときの恋の話。ほろ苦い。

「二人がここにいる不思議」
二十年前に死んだ両親とレストランで食事をする話。歳を重ねるとこういうのがじんわり胸にくる。

「さよなら、ラファイエット」
戦後のPTSDに毎夜悩まされる元戦闘機乗りの老人。「戦争ってのは死ぬことじゃなくて、思い出すことだ」という台詞が重い。

「バンシー」
脚本家と人をからかうのが好きな演出家と女幽霊。寒々しい雰囲気のホラー。

「プロミセズ、プロミセズ」
不倫する人間ってどうしてこうも自分に酔ってるんだろうか。

「恋心」
地球から来た女性に恋した火星の男。ひたすら美しい描写が続き、恋とは幻想なのだと言われているようだ。

「ご領主に乾杯、別れに乾杯!」
領主の葬式。遺言により彼のワイン・コレクションがすべて棺に流し込まれようとするが……。
明るくちょっと笑える話。

「ときは六月、ある真夜中」
夜中に女性を待ち伏せする男と、子供の頃のかくれんぼ。抽象的すぎてよくわからないが、連続殺人者がとうとう捕まる話、でいいのだろうか。描写はかなり詩的。

「ゆるしの夜」
クリスマス・イブの告解。些細でもどこか心に引っかかって後悔していることは、誰しもあると思う。謝罪をし、相手のゆるしが無ければそれはずっと残ってしまうもの。それから解き放たれるには……
短いがじんわりと温かい話だった。

「号令に合わせて」
プールで息子にスパルタ教育を施す父親と、その顛末。
自業自得というか因果応報というか。成長した息子の傷ついたまなざしが父親の爪痕なのかそうでないのか、はたまた視点人物の思い込みか分からないのが余韻を深めている。

「かすかな棘」
列車で出会った未来の自分に、妻を殺してしまったことを告げられる男。
過去改変はやろうとしてもむしろ自分の行動がキーになってしまうという、まあよくある話。

「気長な分割」
離婚することになり、蔵書をああだこうだと分割する夫婦。
オチを読むとタイトルが皮肉気に見えてくる。

「コンスタンスとご一緒に」
男のもとに招待状が届く。「コンスタンスとご一緒に」と書かれていたため妻に浮気を疑われるが心当たりがない。ところがコンスタンスと名乗る美女が現れ……
結局なにが起こったのかわからず、読者と主人公が呆然と佇む話……なのかな?

「ジュニア」
軽く馬鹿馬鹿しい下ネタ。登場人物たちは楽しそうだし、著者もノリノリで書いたんじゃないかな。知らないけど。

「墓石」
夫婦が引っ越してきた部屋にはなぜか墓石があった。石工の忘れ物だというが、妻は幽霊がいると怯えだし……
いないと思ったら実は、というラスト。

「階段をのぼって」
空き家となった実家に帰り、子供時代におびえていた「階段の上になにかいる」という恐怖を思い出す男。最後はゾクッとする文章で好き。

「ストーンスティル大佐の純自家製本格エジプト・ミイラ」
田舎町に退屈していた老大佐と少年がミイラをでっち上げて町中を騒動に陥れる。
少年時代のひと夏の思い出、みたいな話。作中では秋だけど。

「神様の裏の顔」藤崎翔



まるで神様のような人格者だった教師の通夜。喪主姉妹、元教え子、元同僚、アパートの店子といった参列者の視点を切り替えながら、彼がいかに傑物だったか語られる。ところがバラバラな情報を照らし合わせていくと、なにやら不穏なものが浮かび上がり……。



「ノーゲーム・ノーライフ 4 ゲーマー兄妹はリアル恋愛ゲームから逃げ出しました」榎宮祐



ノーゲーム・ノーライフ4作目。
人魚の眠り姫を恋愛ゲームで攻略して起こす、という趣向だが、真面目にゲームをやるわけでもなく話も少々グダグダに感じた。
いろいろと伏線が張ってあった通り終盤付近でどんでん返しが起こり、これから面白くなるかな?といったところで次巻へ続く。

「ストーリー・ガール」L・M・モンゴメリ(木村由利子)




プリンス・エドワード島で過ごす子供たちの物語。
とにかく描写が美しい。単語のひとつひとつが魅力的で、実際は見たことのない植物などを想像してうっとりさせられる。小さい頃に外国の名作を読み、知らない世界にわくわくしていた自分の読書の原点を思い出した。

「チュートリアル」円城塔



街中のいたるところにセーブポイントがあり、人生をセーブ&ロードできる世界の話。
過去を何度もやり直せるので無限の自分が存在する、という感覚がわりと好き。他人のデータもロードできるので自分ではない自分になれるが、それでも己という存在は無数の選択の結果としてひとつ、というのもいい。

「春琴抄」谷崎潤一郎




高慢な盲目の美女と彼女に献身的に使える男の物語。

男が弟子を折檻するのは多々あるけど女が男の弟子を殴打するのは珍しい、春琴には嗜虐性の傾向があったのではないか、という記述に時代を感じる。

佐助は盲目になってさらに春琴の美しさが理解できた、ふたりきりで極楽浄土にいるようだと語る。盲人同士の閉じられた世界で愛を交わすふたりの姿は歪で、それゆえに美しい。

「バッチェル牧師の世にも奇妙な教区録」E・G・スウェイン(遠山直樹)



バッチェル牧師から聞き書きしたという体裁の英国怪談集。それなりに地味なところが英国っぽくもある。うっかり発した言葉で尖ったアーチの下がくぐれず、教会に閉じ込められるはめになった「御堂おばけ」の話が好き。

「ペットショップ夢幻楼の事件帳 思い出はいつもとなりに」鈴木麻純



街の片隅にある不思議なペットショップ。なにかしら心に欠けたものを持つ客が訪れると、ペットをひとつ売ってくれる。そのペットは実は、忘れてしまった記憶が形を取ったもので……という設定の連作短編。

こういう作品は店主と店の幻想的な雰囲気が魅力のひとつなのだけど、本作ではあまりそんな雰囲気が漂ってこなかった。おそらく、主要な視点人物に店主の弟や旧友がいて、彼らとのやりとりでどうにも地に足のついた感じが前に出てきてしまってるせいかと思う。
トカゲの月光さんはいいキャラしてて好き。

「チョコレートの天使」赤井五郎



虫やその副産物を加工し、日用品から武器に至るまで様々に利用する世界。虫技師のニコラは虫の事故で家族を失い、技師をやめて酒の密売組織に入る。一方、町では不可解な殺人事件が起こり……

最初のうちはニコラの過去と酒の密売に手を染めるまでが続き、鬱々とした雰囲気だが、十一章で謎の老婆が登場するあたりで風向きが変わり、俄然面白くなった。
スノウロールの正体と目的がじわじわと明かされて行くにつれ、ハラハラしながらどんどん引き込まれていく。
ラストの幸せそうな描写と、ひたむきに駆け抜けていったスノウロールの生涯がなんとも言えない余韻を残している。

「左近の桜」長野まゆみ



表向きは料理屋、実際は男同士の連れ込み宿、左近。長男の桜蔵は妖しい魅力を秘めており、この世のものではない男たちが寄ってくる。桜蔵自身にはその気がないため逃れようとするが、毎度不可思議な世界に迷い込んでしまい……

夢と現実、生と死の境が曖昧で幻想的な物語。とかく男を惹きつけ、魂が「女」だと揶揄される桜蔵だが、本人にそのつもりはないため、その魅力は周囲の反応で間接的に想像することしかできない。が、客観的に桜蔵の妖しさを描写しないことでかえって想像がかきたてられ、より一層魅力的に感じる。
桜蔵の周りの男たちもそれぞれに妖しく、美しい文章もあいまって上質なお酒をひとり楽しむような時間を堪能できた。


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管理者:dusk

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