

現実よりもだいぶ荒廃した世界を描いた近未来SF。
コミュニケーションを司る器官として言語をとらえるという発想、罪と罰、管理された世界で何者でもない存在であるという自由、脳の機能が解明していく中で薄れていく存在理由など、盛りだくさんの内容だった。
技術の進歩により脳の機能の大部分が明かされ、制御可能になっている。
感覚マスキングの技術で制御されてしまう自分は、どこまで自分なのか――
そして、脳を損傷し、一部のモジュールしか残っていない母親は生きていると言えるのか。
この二つの問いは同じものだ。
主人公は罪を背負う実感を求め、「自ら罪を背負うことを選んだ」と思うことで救われた気分になる。
自分自身の殺意、罪であるということが自分自身の生を裏付けるというのは皮肉な話だ。
物語の終盤、主人公はあることを決断する。
それは、母から愛されていなかったことを知った自暴自棄の行動であり、同時にルツィアを殺したウィリアムズと上層部への復讐なのだろう。