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写本師の穴蔵

本の感想などを書き溜めています。

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「桜宵」北森鴻



香菜里屋シリーズ二作目。



「花の下にて春死なむ」北森鴻



三軒茶屋のビアバー「香菜里屋」のマスター・工藤が、美味しい料理を出しつつ持ち寄られた謎を解決する連作ミステリー。



「ワーキング・ホリデー」坂木司



売れないホスト・大和の前に、息子と名乗る小学生・進が現れる。
夜の世界に向いていない大和を案じたオーナーの采配により、大和は宅配会社に転職。期間限定の父子生活を開始するが……

熱血バカな大和が、彼なりに真摯に進と向き合う姿が微笑ましい。親になろうとしつつも、まだまだ子供っぽさが抜けない感じが上手く描かれている。
父親としては若葉マークだが、ゆくゆくは取れる日もくるのだろうか。

一方の進は料理上手で家事の得意なしっかり者。そうなったのは母を支えようという健気な思いが背景にあるのだろう。
そんな彼が、帰りたくないと年相応に駄々をこねるシーンは胸に来た。

「切れない糸」坂木司




父親の急死により、実家のクリーニング屋を継ぐことになった和也。預かった衣類にまつわる謎を、喫茶店で働く友人・沢田が解き明かす連作短編集。

若者らしく商店街のつながりを鬱陶しがっていた和也が、失敗を重ねつつ成長していく姿が微笑ましい。
著者のひきこもり探偵シリーズと似た雰囲気だが、あれよりは重たさと湿っぽさが軽減され、明るい人情譚になっている。

「ジェネラル・ルージュの伝説」海堂尊



ジェネラル・ルージュこと速水に関する短編三部作、および著者の自伝と自作解説。

「伝説ー1991」
ジェネラル・ルージュの異名となった城東デパート火災事件の話。水落冴子と城崎の出会いも描く。
若き天才が修羅場をくぐっていく様が面白い。

「疾風ー2006」
三船視点の「ジェネラル・ルージュの凱旋」。とにかく速水のかっこよさを描きたいんだなあ、と感じた。

「残照ー2007」
速水去りし後のオレンジ新棟。うっすら埃の積もった机と、回転翼が一枚折れたドクター・ヘリの模型が印象的。

「マドンナ・ヴェルデ」海堂尊




「ジーン・ワルツ」を別の視点から描く。

「ジーン・ワルツ」海堂尊



閉院間近のクリニックに勤める医学部助教と、五人の妊婦の物語。
妊娠・出産という女性が何かしらの形で向き合わなければならないテーマを描く。



「剣の名誉」エレン・カシュナー(井辻朱美)




「剣の輪舞」から18年後の物語。アレクの姪キャザリンの成長譚。

アレクはますます変人っぷりに磨きがかかり、狂公爵として悪名を轟かせている。しかもリチャードがそばにいないようだ。いったいふたりに何が……と前作の読者はやきもきさせられる。
第二部でアレクとリチャードが邂逅した時、アレクの台詞が「剣の輪舞」ラストと同じだった。アレクはああやってさりげなさを装いつつ、実はリチャードに受け入れられるかどうか内心不安なのかもしれない。
キャザリン視点ということもあり、リチャードが人間的に完成されているように見える。田舎で穏やかに暮らしている剣の達人となれば誰が見てもそうなのかもしれないが。アレクの変人っぷりが際立つせいで、端から見れば公爵の片想い状態だ。とはいえ前作でも落ち着いた物腰のリチャードが内面はアレクにぞっこんだったのだから、リチャードの内心が描写されればアレクを失うことへの不安が渦巻いていた可能性はある。

さて、主人公はうら若い娘のキャザリンなのだが、その成長っぷりはなかなか痛快だ。
女性は父あるいは夫の所有物であり、彼らに従うことが美徳で、男装、ましては剣術などとんでもないとされる価値観の社会。最初は嫌々ながらも、男装し剣の修行や人前での決闘を経て、だんだん自我を確立していく彼女は魅力的だった。





「剣の輪舞<増補版>」エレン・カシュナー(井辻朱美)




中世ヨーロッパ風の世界。貴族達が優雅に支配する<丘>と、庶民がたくましく生きるリヴァーサイドの地域から構成される市で、凄腕の剣客リチャード・セント・ヴァイヤーと謎めいた学生アレクがふたりで暮らしていく。
本編である「剣の輪舞」と三つの短編を収録。

「剣の輪舞」
本編。竜法務官フェリスがリチャードに上司の殺害を依頼する。フェリス、若い貴族のマイケル、彼に振られて逆恨みするホーン卿、そして彼らを手玉に取り政治を操るトレモンテーヌ公爵夫人。リチャードは貴族達の権謀術数に巻き込まれていく。アレクは妙に貴族のことに詳しいのだが…
とにかく文章に比喩が多く、耽美な雰囲気がこれでもかと振り撒かれている。その分わかりにくくもあるが、主要キャラの魅力は伝わってくるので構わないのだろう。わがまま放題だがどこか人を惹き付けるアレク、ストイックだがアレクには激甘なリチャードのカップルが良い。剣に目覚めたマイケルとアップルソープの師弟関係も魅力的だし、誰よりも上手を取る公爵夫人もいい味出している。

「死神という名前ではなかった剣客」
アレクとリチャードの元に望まない婚礼から逃げ出した娘が訪れる。ちょっと強引な話の運びでアレクが妹について語る。

「赤いマント」
上等な赤いマントの男がリチャードと決闘する。ホラー仕立て。

「公爵の死」
アレクの晩年。本編の後にいろいろありまくったことが示唆されているが、本当に断片的な情報しかないので話に乗りきれなかった。たぶんこれまでの道程を物語として読んだ後なら感涙にむせたかもしれない。

「Self-Reference ENGINE」円城塔




時間がはちゃめちゃになった世界の連作短編集。だと思う。
正直よくわからなかったし、完全に理解できることはないだろう。だが面白かったのも事実。
もつれた過去と未来、巨大知性体、なにがしらかが起こったらしい「イベント」。読み込めばわかりそうで、でもすぐにつるっと手から抜けていく感じがする。
理論SFの雰囲気とストーリーの断片をちょっとずつ噛みしめ、長く楽しめる本。



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管理者:dusk

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