
三軒茶屋のビアバー「香菜里屋」のマスター・工藤が、美味しい料理を出しつつ持ち寄られた謎を解決する連作ミステリー。
「花の下にて春死なむ」
急死した俳人・片岡草魚には、身元を示すものが一切無かった。望郷の念を抱えていた彼のために、飯島七緖は心当たりの地へ向かう。
草魚が故郷に帰れなかった理由が凄絶。遠因となった彼の父親の自尊心に、人間の業を感じる。
また、彼とは関係ないとある犯罪者の所業が、桜の小枝を開花させ、死に際の草魚を慰めたのが味わい深い。
「家族写真」
駅の貸本の一部に家族写真が挟まっている、という新聞記事を発端に、常連客があれこれ推理する。
工藤は単なる安楽椅子探偵ではなく、いろいろと手の込んだこともやるらしい。アフターフォローもきめ細かい。
「終の棲み家」
個展を開いたカメラマン。だた、そのポスターがすべて何者かに剥がされてしまう。
苦い話になるのかな、と思えば最後にくるりとひねってあたたかい話になった。
「殺人者の赤い手」
局地的にはやった都市伝説と、香菜里屋の近くで起きた殺人事件。
都市伝説の真相がほろ苦くて良い。「赤い手」の正体は意外だが、赤と言うには黒みが強い気もする。
「七皿は多すぎる」
回転寿司屋で鮪ばかり食べる男について、常連客があれこれ推理する。
強引にも程があるこじつけ推理をいろいろ楽しめるのがこの手の話の醍醐味。真相(?)の伏線は意外なところに。
「魚の交わり」
片岡草魚が生前交流したとある女性の話。
タイトルは水魚の交わりにもかかっているのだろうか。物悲しくも、草魚の人柄が浮かび上がってくる。