

トイレの落書きが発端の「A MASKED BALL」と、異形に変貌した男の哀しみを描いた「天帝妖狐」の二編を収録。
「A MASKED BALL」
トイレの壁に書かれた落書きで交流する、お互いに名前も顔も知らない5人。
2ちゃんねるを彷彿とさせる作品だが、これが刊行されたのは2ちゃんねる開設前である。
もちろんネット掲示板は賑わっていたが、ネットはネット、リアルはリアルといった線引きがどこかで成されてたように思う。
著者の先見の明に感服。
匿名掲示板という要素を除いても、自然なミスリードと意外な犯人という展開は面白かった。
「天帝妖狐」
徐々に異形の怪物に変貌していく青年と、純朴な少女の交流。
人としての身体を取られ、人間からも動物からも恐れられる姿で永遠に生きなければならない夜木だが、その心は純粋で温かい。
彼は心無い男たちに私刑され、ついに人間の姿を完全に失ってしまう。
理性を失った夜木は秋山に復讐するのだが、嫌な登場人物が痛めつけられる姿に思わずすっとしてしまった。
そして夜木が我に返った時、私も自分の心に潜む「獣」にぞっとするのだ。
落ち度があるわけでもなく、ただ不運だったがために永劫の苦しみを背負った夜木。
獣に蝕まれながらも人であることをやめなかった夜木はとても強い人間だ。
彼と杏子が別れる場面、他人の言葉としてお互いの感情を伝える描写にぐっときた。