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写本師の穴蔵

本の感想などを書き溜めています。

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「世界堂書店」米澤穂信 編





米澤穂信氏が厳選したアンソロジー。
一筋縄ではいかない、味のある短編小説が収められている。






「源氏の君の最後の恋」マルグリット・ユルスナール(多田智満子)
年老いた光源氏と花散里の物語。
花散里の一途さがいじらしく、切ない。
憐れまれるくらいなら忘れられてしまいたい、と隠居しつつも、「そんな人知りません」と言われて「もう忘れられたのか」とがっかりする源氏の人間味が好き。
ちなみに解説でもふれられているが、花散里と末摘花の設定が混同されている。


「破滅の種子」ジェラルド・カーシュ(西崎憲)
嘘から出たまこと。
ジスカ氏の話がどんどんふくらんで、ひとり歩きしていくところはわくわくしながら読んだ。
オチもピリッと決まっている。


「ロンジュモーの囚人たち」レオン・ブロワ(田辺保)
町に囚われ、ついに逃げられなかった夫妻の話。
ジャック・フィニイの「クルーエット夫妻の家」を思い出したが、それと違って囚われることを望んでいなかったために悲劇的な結果になった。


「シャングリラ」張系国(三木直大)
設定自体はよくあるSFだが、小道具が素敵。
情景を想像するとなんだか笑ってしまう。


「東洋趣味」ヘレン・マクロイ(今本渉)
美女といわくつきの山水画をめぐる幻想譚。
訳文が美しく、雰囲気にひたった。


「昔の借りを返す話」シュテファン・ツヴァイク(長坂聰)
落ちぶれた俳優と昔のファンのちょっといい話。
晩年に見る泡沫の夢は、とても美しいのだろう。


「バイオリンの声の少女」ジュール・シュペルヴィエル(永田千奈)
バイオリンのように美しい声の少女と、その声の喪失。
彼女の声が内面を映すものだとしたら、バイオリンのように美しいというのは、彼女がまれな純真さをもっていた、ということなのだろうか。


「私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」キャロル・エムシュウィラー(畔柳和代)
知らない他人の家に入り込み、徐々に生活を侵食していく。
これが「あなた」視点なら結構よくあるホラーだが、侵入者視点なのでシュールな話になっている。


「いっぷう変わった人びと」レーナ・クルーン(末延弘子)
嬉しくなると浮いてしまうインカと、影の無いハンノ、鏡に映らないアンテロの話。
いっぷう変わっていても、仲間がいると心強いものだ。


「連瑣」蒲松齢(柴田天馬)
幽霊女と結婚する話。
翻訳が漢文風なので、読むのに苦労したがなかなか面白かった。
気の強い幽霊というか、ちょっとツンデレ風で現代的な性格をしている。


「トーランド家の長老」ヒュー・ウォルポール(倉阪鬼一郎)
無神経さが旧勢力を打ち破る。
コンバー夫人の無神経さにはいらいらするが、かといってトーランド老婦人がいい人というわけではないのであまり同情心はわかない。
毒を以て毒を制す、といった感じ。


「十五人の殺人者たち」ベン・ヘクト(橋本福夫)
医者たちが自分の医療ミスを告白する秘密クラブ。
オチが爽快で、ほっとさせれられた。


「石の葬式」パノス・カルネジス(岩本正恵)
虐げられたふたごの復讐譚。
結末は現実的で少し残念な感じがしたが、ふたごも小鳥商人も殺人という罪を犯さなかったのだと考えると、少し救われる。


「墓を愛した少年」フィッツ=ジェイムズ・オブライエン(西崎憲)
忘れられた墓に心を持っていかれてしまった少年。
救いのない結末も墓地のように寒々しい。


「黄泉から」久生十蘭
昔自分を慕っていた女性を悼む話。
文章がしっとりとしていて美しく、あまりにも一途なおけいを魅力的に描いている。

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