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写本師の穴蔵

本の感想などを書き溜めています。

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「ナイチンゲールの沈黙」海堂尊





「チーム・バチスタの栄光」に続く作品。
これと「ジェネラル・ルージュの凱旋」は同時間軸の物語となり、「螺鈿迷宮」への伏線もあちこちに張ってある。

前作よりもロマンチックというか、ファンタジックな仕上がり。
著者の書く(特に妙齢の)女性には、男性目線フィルターがかかっているように感じてしまう。
同性から見て、なんか現実感がないというか…
男性である田口視点では、「田口先生にはこう見えているのだな」というように田口視点フィルターを意識して読めるが、この作品では女性である小夜視点が多いので違和感を覚えてしまう。

小児科が舞台なので何人か子供たちが出てくるが、アツシが出てくると場が和むのでほっとする。
普段はケロロの口調を真似ながら、ぽろっと本音をこぼす時は素の口調になる、というのが健気でいい。

余命いくばくもない由紀が、自分の運命を受け入れている姿はいじらしい。
彼女の沈黙を受けとめ、一人の女性として扱う田口に器の大きさを感じた。




「チーム・バチスタの栄光」海堂尊






神経内科講師の田口は、病院長から原因不明の連続術中死の原因を探るよう依頼される。
たまたま不運が続いたのか、医療ミスか、それとも殺人なのか――。

最新医療の現場という、素人の理解を阻みがちな専門領域を舞台としながら、とても分かりやすくてさくさく読み進められた。
主眼を謎の連続死に置きながら、文章の端々にさらっと現代医療の抱える問題が描かれる。
現役医師が感じた問題を、ミステリというオブラートに包んだ作品、とも言えるだろうか。


さくさく進むストーリーや、ロジカルに解かれていく謎もさることながら、この作品の魅力は何と言っても登場人物だろう。
とにかく、主役から脇役にいたるまで個性的で魅力的だ。

語り手兼主役の田口は、懐の深さというか安心感を感じさせる。
不定愁訴外来にただよう落ち着いた雰囲気は、まさに田口を象徴している。
カウンセリングを受けるなら、田口のような医師がいい。
その一方で、ここぞという時の切り札の使い方は鮮やかだ。
記者会見の締め方には胸がすっとした。

7人も容疑者がいればキャラクターがかぶったり何人かの影が薄くなったりしがちだが、この作品ではそれがない。
調査ファイル、という形で一人ずつまとめているのが大きいだろう。
動物への見立てや、名前の由来に対する返答も分かりやすさの一因だ。

老獪な狸の病院長、皆から慕われるベテラン看護師、ウワサ好きな後輩医師など、アクの強い脇役も華を添えている。

田口が丁寧に登場人物を観察した後に躍り出てくる白鳥は、非常に強烈なキャラクターだ。
相手を受けとめる田口と、ずかずかと相手に切り込む白鳥は対照的なコンビで、そのデコボコさが面白い。
白鳥が出てきてからの展開は一層スピーディになり、結末に向かって一気に進んでいく。

犯人については少々苦い結末だが、病院改革への希望や、チーム・バチスタのそれぞれの旅立ちなど、明るさを感じさせる終わり方だった。



「Zの悲劇」エラリー・クイーン(鮎川信夫)





ドルリー・レーンシリーズ3作目。
主にサム警部の娘、ペーシェンスが活躍する。
前二作に比べて謎解きがどうも大雑把になっているというか、あまりしっくりこなかった。
死刑制度の悲劇性もクローズアップされていたが、前作の結末を考えると、これまたしっくりこない気がする。


「プリティが多すぎる」大崎梢





ローティーン向けのファッション雑誌「ピピン」に配属された男性若手編集者が、悪戦苦闘しながら成長する物語。


意に沿わない異動に落ち込み、いろいろとやらかしてくれるので、ちょっとハラハラしながら読んだ。
まあ、この状況はきついよね…うん。

とある人気作家がピピンの愛読者で、雑誌に出てくるような女の子になるのを空想していた、というエピソードが好み。
専属モデルの少女たちの描写には結構リアリティを感じる。
あの年頃の、ある意味純粋で、ひたむきで、まだまだ視野が狭かった時の、運動部の様子を思い出した。

「カルメン」プロスペル・メリメ(堀口大学)

カルメン (1956年) (新潮文庫)


周りを散々ふりまわして自分の思うように生きるカルメンは、確かに悪女だが非常に魅力的に映る。
どこまでも自分に正直なカルメンだからこそ、ホセは心底惚れて束縛しようとするし、カルメンはその束縛から逃れようとする。逃げようとするからホセはさらに束縛したがる…という二人の最後はああなる他なかったろうし、カルメンもきっと分かっていたのだろう。
悲劇的な最期をむかえることを予期しながらも、自分の、ジプシーとしての生き方を貫くカルメンには、ほんの少しだけ憧れる部分もある。




「イーシャの舟」岩本隆雄





「星虫」より三年前、シリーズの世界設定に関わる話。
一途なイーシャがかわいい。
地球の命運が一組のカップルに託されるというのは正直好みではないが、それはそれとして年輝とイーシャの組み合わせは好きだ。
和美と亨については正直ご都合主義なんじゃないかと思ってしまったが…まあ和美の納まりが悪いとハッピーエンドに水を差すから、仕方ないのか。





「鵺姫真話」岩本隆雄





「星虫」と同じ世界の物語。
純、ひろし、まさるの三人は、「鵺姫」の力で過去の世界に転移させられる。

夢に挫折した純、気弱なひろし、人嫌いのまさる達が、苦難を乗り越えて成長する姿が熱い。
ストーリーもテンポよく展開し、徐々に明かされる謎が読者を惹きつけて離さない。
そしてすべての謎が明かされた時、よく組み込まれた構造に感嘆する。
序盤から張られた伏線がきっちり回収され、気持ちよく読めた。

「星虫」岩本隆雄




人間の額に吸着して宿主の感覚を増幅する宇宙生物「星虫」と、宇宙飛行士になりたい少女が織りなす少々くすぐったくなるようなピュアな物語。
最初は謎の生物、次は五感を鋭くしてくれる便利なもの、そして次第に意志を持つように成長する星虫に対する世間の手のひらの返しっぷりは結構リアル。
担任は結構まともな意見を言うなあ、と感心しつつ、政府や自衛隊の典型的な悪役っぷりには苦笑した。

「地球環境はかけがえの無いもので、大切にしなければならない」というメッセージが直球でこめられていることに、なんとなく時代を感じる。
確かにこれが書かれた1990年代には、公害や環境破壊がクローズアップされていた。
学校で紹介されたカーソンの「沈黙の春」も読んだものだ。
最近では「環境を守る」というテーマは社会に浸透し、「どのように守るか」「守るべき環境とは何か」の方に主眼が置かれている。
この四半世紀で、よい方向に進んだのだと考えたい。


「永遠の森 博物館惑星」菅浩江




地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館を舞台に、データベースと直接接続した学芸員が「美しさ」を追求する連作短編集。
「享ける形の手」、「永遠の森」、「嘘つきな人魚」、「きらきら星」が好き。

「亡国のイージス」福井晴敏





自衛隊の潜水艦を舞台に繰り広げられる、熱い男たちの物語。
専門用語が多くて少々とっつきにくい文章ではあるが、登場人物たちが悩み、苦しみながらも自らの信念に従い闘う姿に、ページをめくる手も速まる。



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管理者:dusk

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