

現実と物語世界の境界線上の雰囲気がたっぷり堪能できる短編集。
「探偵と怪人のいるホテル」
探偵小説(推理小説ではなく、あくまで探偵小説)の舞台になりそうなホテルを楽しむ男。
しかし陰謀の手が迫っていて…
物語世界と現実世界が反転する瞬間がいい。
「仮面と幻夢の踊る街角」
現実世界の鬱屈を、変装して出歩くことで晴らす女性。
ある時物語世界に連れ込まれてしまい…
本編のストーリーも幻想的でいいが、劇中劇となる物語世界のストーリーも入り組んでて面白い。
主役である女性は状況に巻き込まれ、流されてはいるが、最後の彼女の姿はとても凛々しく、強く、美しい。
この本で最も好きな作品。
「少年と怪魔の駆ける遊園」
少年に箱庭療法を受けさせるカウンセラー。
箱庭世界に取り込まれてしまい…
箱庭に囚われた「私」が誰か、箱庭の世界は誰が作ったのか、その変化が幻想的。
「異類五種」
昔の中国を舞台にした怪異譚五編。特につながりは無い。
この中では、皮肉な落ちの狐異が好み。
「疫病草紙」
競い合う二人の男、醜悪なものしか愛せない美女、男の愛を取り戻そうと呪術にすがる女性の間を、謎の薬師が暗躍する。
恋の鞘当の結末や薬師の正体、中納言の末路、そのすべてにおいて人間のどろどろした情を描いていて面白い。
「黒死病館の蛍」
隔離所の哀しい恋の話。
語り手も聞き手も最後まで正体が明かされないが、最後はなかなか不気味な暗示で終わる。
「F男爵とE博士のための晩餐会」
大正末期に来日したアインシュタイン博士は、謎の男爵の招待を受ける。
本当に恐ろしいのは…という主題で、この本では最も現実的な話。
「天幕と銀幕の見える場所」
青年記者と給仕がサーカスに出かけると、記者は不可解な行動に出る。
最後は拍子抜け…と思いきや、もう一捻りした味のある結末。
「屋根裏の乱歩者」
屋根裏の散歩者の映画を撮る「彼」。
自分は誰なのか、ここは何処なのかが二転三転し、とても幻想的な作品。
「伽羅荘事件」
著者の愛が詰まった作品。
自分の愛する作者と別れが避けられないのは非常に悲しいことだが、それがこうであったなら悲しみも少しは薄まる。