
香菜里屋シリーズ最終作。常連客たちは人生の新しいステージへ進む。そしてマスター工藤も……。
「ラストマティーニ」
古き良きマティーニを作り続けてきた老バーマン。ところが一杯の失敗作を香月に出した後、店をたたんでしまう。
一刻者のバーマンが画策した人生の幕引きの演出は、なかなか渋かった。
「プレジール」
結婚し山口へ行くことになった七緖。様子のおかしい友人を心配しつつ、香菜里屋との別れを惜しむ。
結婚という人生の華を主軸に置きながら、介護というシビアな世界を垣間見せる辛口な構成。
「背表紙の友」
山田風太郎の本を買うのが恥ずかしく、他の文庫と表紙を掛け替えて買った若き日の思い出を語る東山。彼のもとに、背表紙の友と名乗る差出人から荷物が届く。
思いがけないことから人の縁は結ばれるものだ。
「終幕の風景」
香菜里屋の店じまい。
侘しさはあるが、工藤にとっては希望の門出でもある。
語り手の正体は意外な人物。だが個人的には、彼は香菜里屋の客とシリーズ愛読者の集合体的な概念に思えた。
「香菜里屋を知っていますか」
店じまい後の話。
工藤自身は出てこないが、蓮丈那智、宇佐見陶子、越名集治と他シリーズのキャラクター出演は最後の話にふさわしい。那智と陶子、ふたりの女傑のアクが強いこと。工藤を陥れた時田もたじたじである。
工藤の過去は、シリーズを通して引っ張ったわりにあっさり明かされた印象。けど、それで良かったのだろう。作者が他界し新作を望むべくもない今となっては、完結を見届けられたことがせめてもの慰めである。