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写本師の穴蔵

本の感想などを書き溜めています。

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「天帝妖狐」乙一




トイレの落書きが発端の「A MASKED BALL」と、異形に変貌した男の哀しみを描いた「天帝妖狐」の二編を収録。


「A MASKED BALL」
トイレの壁に書かれた落書きで交流する、お互いに名前も顔も知らない5人。
2ちゃんねるを彷彿とさせる作品だが、これが刊行されたのは2ちゃんねる開設前である。
もちろんネット掲示板は賑わっていたが、ネットはネット、リアルはリアルといった線引きがどこかで成されてたように思う。
著者の先見の明に感服。
匿名掲示板という要素を除いても、自然なミスリードと意外な犯人という展開は面白かった。


「天帝妖狐」
徐々に異形の怪物に変貌していく青年と、純朴な少女の交流。
人としての身体を取られ、人間からも動物からも恐れられる姿で永遠に生きなければならない夜木だが、その心は純粋で温かい。
彼は心無い男たちに私刑され、ついに人間の姿を完全に失ってしまう。
理性を失った夜木は秋山に復讐するのだが、嫌な登場人物が痛めつけられる姿に思わずすっとしてしまった。
そして夜木が我に返った時、私も自分の心に潜む「獣」にぞっとするのだ。
落ち度があるわけでもなく、ただ不運だったがために永劫の苦しみを背負った夜木。
獣に蝕まれながらも人であることをやめなかった夜木はとても強い人間だ。
彼と杏子が別れる場面、他人の言葉としてお互いの感情を伝える描写にぐっときた。

「プリティが多すぎる」大崎梢





ローティーン向けのファッション雑誌「ピピン」に配属された男性若手編集者が、悪戦苦闘しながら成長する物語。


意に沿わない異動に落ち込み、いろいろとやらかしてくれるので、ちょっとハラハラしながら読んだ。
まあ、この状況はきついよね…うん。

とある人気作家がピピンの愛読者で、雑誌に出てくるような女の子になるのを空想していた、というエピソードが好み。
専属モデルの少女たちの描写には結構リアリティを感じる。
あの年頃の、ある意味純粋で、ひたむきで、まだまだ視野が狭かった時の、運動部の様子を思い出した。

「イーシャの舟」岩本隆雄





「星虫」より三年前、シリーズの世界設定に関わる話。
一途なイーシャがかわいい。
地球の命運が一組のカップルに託されるというのは正直好みではないが、それはそれとして年輝とイーシャの組み合わせは好きだ。
和美と亨については正直ご都合主義なんじゃないかと思ってしまったが…まあ和美の納まりが悪いとハッピーエンドに水を差すから、仕方ないのか。





「鵺姫真話」岩本隆雄





「星虫」と同じ世界の物語。
純、ひろし、まさるの三人は、「鵺姫」の力で過去の世界に転移させられる。

夢に挫折した純、気弱なひろし、人嫌いのまさる達が、苦難を乗り越えて成長する姿が熱い。
ストーリーもテンポよく展開し、徐々に明かされる謎が読者を惹きつけて離さない。
そしてすべての謎が明かされた時、よく組み込まれた構造に感嘆する。
序盤から張られた伏線がきっちり回収され、気持ちよく読めた。

「星虫」岩本隆雄




人間の額に吸着して宿主の感覚を増幅する宇宙生物「星虫」と、宇宙飛行士になりたい少女が織りなす少々くすぐったくなるようなピュアな物語。
最初は謎の生物、次は五感を鋭くしてくれる便利なもの、そして次第に意志を持つように成長する星虫に対する世間の手のひらの返しっぷりは結構リアル。
担任は結構まともな意見を言うなあ、と感心しつつ、政府や自衛隊の典型的な悪役っぷりには苦笑した。

「地球環境はかけがえの無いもので、大切にしなければならない」というメッセージが直球でこめられていることに、なんとなく時代を感じる。
確かにこれが書かれた1990年代には、公害や環境破壊がクローズアップされていた。
学校で紹介されたカーソンの「沈黙の春」も読んだものだ。
最近では「環境を守る」というテーマは社会に浸透し、「どのように守るか」「守るべき環境とは何か」の方に主眼が置かれている。
この四半世紀で、よい方向に進んだのだと考えたい。


「クローバー・レイン」大崎梢





若手編集者が一冊の本を出すために奮闘する。

老舗として傲慢さを誇る千石社の面々を、彰彦がひとつひとつ攻略していく様に引き込まれる。
はじめは孤軍奮闘、でもその情熱が徐々に味方を増やし、ついには大物をも動かす、というのはやっぱり痛快だ。
同時に、本一冊を出すために乗り越えなければならない障壁の多さに唸ってしまう。
本屋で何気なく手にする本、それにどれほどの手がかかっているかは、あまり考えたことがなかったなあ。

彰彦の冬実への想いはもっと抑え目の方が好みだ。なくても成立するし。
最後のシーンにはほろりと来た。


「暗黒童話」乙一





事故で記憶と左眼を失った少女。眼球を移植されるが、その左眼はさまざまな映像を映しはじめて…

かなりグロテスクな情景がたくさん出てくるが、乙一氏独特の淡々とした文体や、「三木に傷つけられた生物は痛みを感じず、まどろむような状態になる」という設定のせいか、生々しさを感じさせず、背景の装飾にとどまっている。
最初は孤独でうつむいていた「私」が徐々に顔をあげ、しっかりと前に進んでいく様子が胸に沁みる。


「夏と花火と私の死体」乙一





異色の視点で語られる「夏と花火と私の死体」と、住み込みで働いている家の謎を探る「優子」の二編を収録。


「夏と花火と私の死体」
死体である"私"がの一人称視点という、異色の物語。これがデビュー作であるからすごい。
殺されてしまった少女が、彼女の死体を隠そうとする兄妹の行動を語るのだが、非常に語り口が淡々としている。
自分を殺した相手だというのに、憎しみだとか怨みなどを感じさせず、ただ超然と語るのだ。
その一方で、淡い思いを抱いていた相手の目に自分の裸足が触れることを恥ずかしがるという、少女としての感覚を見せもする。
幻想的で不思議な味わいが忘れられない作品。


「優子」
住み込みで働く使用人の清音は、姿を見せない奥様に疑問を持つ。
非常に上手い構成で、あっさり騙された。
さりげなく張られた伏線と、全体を覆う雰囲気がいい。




「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」太田紫織




骨好きのお嬢様が謎を解くミステリ短編集。

文章が読みやすく、すんなり頭に入ってくるのでさくさく読める。
死体から骨を取り出す描写や、北海道の食事描写などは読み応えがあった。
正太郎はだいぶ感受性が豊かで、ドライな櫻子との組み合わせが面白い。
全体的なストーリーの行く末は決まっているような描写があるので、シリーズの先行きも気になるところ。







「ようこそ授賞式の夕べに」大崎梢





成風堂書店シリーズと出版社営業シリーズのコラボレーション。
舞台は本屋大賞ならぬ書店大賞授賞式ということで、お祭り騒ぎな本だった。
多絵と井辻がそれぞれの方向から事件を追い、終盤で邂逅する。
真犯人がちょっと雑な扱いだったとは思うが、にぎやかで楽しめた。





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管理者:dusk

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