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写本師の穴蔵

本の感想などを書き溜めています。

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「イリヤの空、UFOの夏 その1」秋山瑞人






王道のど真ん中をいく青春ストーリー。
青春の夏の空気感がこれでもかと詰め込まれている文章が心地よい。

SF的なギミックはあるものの、ストレートにボーイ・ミーツ・ガールを展開させる浅羽と伊里野。
彼ら主人公を中心に、強烈なキャラクターの水前寺、飄々とした榎本が脇を固めている。

どうやら裏でシリアスな状況が進行しているらしいが、まだ伏線レベルで全容は見えない。
今後の展開が気になる。








「道化師の蝶」円城塔





旅の間にしか読めない本の話が蝶の羽ばたきのようにくるくる変わっていく「道化師の蝶」と、お互いの本を翻訳しあう関係の相手を訪ねる「松ノ枝の記」の二編。


常に己について語っている物語。
幻想的というよりかは、幾何学的な印象を受けた。
単語の選び方、文章の連なり、ストーリーの流れがとても心地よい。
解釈や比喩はいくらでもできそうだが、ただただ物語にひたっていたい。

「問題物件」大倉崇裕




不動産会社の派閥争いに巻き込まれ、クレームを処理することになった恵美子。
無理難題を押しつけられた彼女の前に、犬頭と名乗る謎の探偵が現れる。

犬頭の不思議なパワーでトントン拍子に話が進む。
細かいことは気にせず、ちょっとした謎の解決、無双する探偵、漫才のような会話が楽しめる。
傍若無人にふるまうが、なんだかんだ恵美子に優しい犬頭のキャラクターが良い。




「探偵と怪人のいるホテル」芦辺拓






現実と物語世界の境界線上の雰囲気がたっぷり堪能できる短編集。



「調幻の氷翠師」麻木未穂




男性が愛の証として女性の爪に美しい刺青「リーフィン」をする「青入れ」という風習のある異世界ファンタジー。
愛の証を目に見える形で示すことが当然とされる世界観だ。

リーフィンと対照的に、シェネラとルネの愛の証が周囲に示されることはない。
シェネラの腕輪の意味を理解するものは少なく、ミコーの「あかし」は人目に触れない。
周囲にどう見られているかを意に介せず、ただひたすら己の信じた道を進み、愛を貫くシェネラが凛々しく、美しい。

物語を綴る文章もまた美しい。
調幻に青入れ師、氷翠、奉愛者、神愛妃など造語も多いがそこまで気にならないし、料理の描写は美味しそうだ。
そして構成も綺麗にまとめあげ、さりげない伏線がクライマックスを盛り上げてとても面白かった。
ぜひ続編を読んでみたい。






「ご恩、お売りします。恩屋のつれづれ商売日誌」朝倉景太郎




会った日から一週間しか相手の記憶に残らない男が「恩を売る」ために依頼人の悩みを解決する短編集。
主人公の背負った運命が、ストーリーにもの悲しさをあたえている。
最終話で翔子が恩屋を忘れてしまうシーンが切なくて好き。



「福家警部補の報告」大倉崇裕




福家警部補シリーズ3作目。


「禁断の筋書」
漫画かと編集者の因縁。
殺害対象のことをよく知らないと、完全犯罪は難しい。


「少女の沈黙」
ミステリーというよりは任侠もの。
今回の主役となった菅原は、胆力があり、頭が切れ、なによりも情の厚い、いい漢だ。
だからこそ元組員や目撃者の少女に慕われ、果ては敵対していた組のナンバースリーも彼を手助けする。
そんな中で事実を追い求める福家には逆風が吹き、いつもより苦闘している印象だ。
福家と菅原のやり取りは、犯人を一方的に追い詰めるというよりも、丁々発止の闘いを感じさせる。
手に汗にぎる闘いの終わりかたはすがすがしく、読後感も心地いい。


「女神の微笑」
一筋縄ではいかない老夫婦の犯罪。
シリーズ最強の敵登場、といったところか。
穏やかな口調で語る、足と耳に障害を持つ老女というのが、かえって底知れない凄みを感じさせる。
彼女もまた彼女の信念と正義を持ち、決して福家と相容れることはない。
今後の登場が楽しみ。


「福家警部補の再訪」大倉崇裕




福家警部補シリーズ2作目。

「マックス号事件」
航行中のフェリーで殺人。
計画殺人の割には犯人の迂闊さが目立つ。

「失われた灯」
脚本家が脅迫者を殺害。
なかなか手の込んだ計画。
今回の決め手となる証拠に、古畑任三郎のある話を連想する。

「相棒」
売れなくなった漫才師の悲劇。
自分にとって相棒がどれだけ大切か、取り返しがつかなくなるまで気づかなかった犯人と、自分の信念を最後まで貫いた被害者。
犯人の喪失感の描写がもの悲しく、味わいぶかい。

「プロジェクトブルー」
ソフビ人形を巡る事件。
決定的な証拠が文字通り鮮やかで、印象に残る。


「福家警部補の挨拶」大倉崇裕




倒叙ミステリー連作短編集。
刑事コロンボや古畑任三郎シリーズを思い出させるが、よりさくさく進むイメージ。

「最後の一冊」
図書館の館長が、図書館を潰そうとする二代目オーナーを殺害。
犯人の姿勢が首尾一貫していて好印象。

「オッカムの剃刀」
犯罪学の講師が脅迫相手を殺害。
最後に明かされる、福家が犯人を疑うきっかけの開示が鮮やかでいい。

「愛情のシナリオ」
女優がライバルを殺害。
伏線がさりげない。不在通知携帯の電源には気づかなかった。

「月の雫」
酒造会社の社長が、会社を乗っ取ろうとするライバル会社の社長を殺害。
一作目の「最後の一冊」もそうだが、自らの信念のために罪を犯し、同じ信念のために足を救われる展開が好み。




「虐殺器官」伊藤計劃




現実よりもだいぶ荒廃した世界を描いた近未来SF。

コミュニケーションを司る器官として言語をとらえるという発想、罪と罰、管理された世界で何者でもない存在であるという自由、脳の機能が解明していく中で薄れていく存在理由など、盛りだくさんの内容だった。

技術の進歩により脳の機能の大部分が明かされ、制御可能になっている。
感覚マスキングの技術で制御されてしまう自分は、どこまで自分なのか――
そして、脳を損傷し、一部のモジュールしか残っていない母親は生きていると言えるのか。
この二つの問いは同じものだ。
主人公は罪を背負う実感を求め、「自ら罪を背負うことを選んだ」と思うことで救われた気分になる。
自分自身の殺意、罪であるということが自分自身の生を裏付けるというのは皮肉な話だ。




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管理者:dusk

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