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写本師の穴蔵

本の感想などを書き溜めています。

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「謎解きはディナーのあとで」東川篤哉




お嬢様刑事に仕える毒舌執事が謎解きをする連作短編集。
文章は軽くて読みやすい。
すごいトリックがあるわけではないが、この作者のユーモア感覚がわりと性に合うので楽しく読めた。


「天冥の標VI 宿怨」小川一水





怒涛の展開。
<<救世群>>と<<非染者>>の攻防、被展開体達の三つ巴など、さまざまな面で物語が進行していく。
IIVまでに語られた物語が、どうやってIにつながるのかがようやく見えてきた。

Iで出てきた<<石工>>ことカルミアンが、ずいぶんと状況を拗らせてしまったようだ。
まさか、こんな食えない種族だとは思ってなかった。
カルミアンも人類も、お互いが初めて接した異種族だった、というのが悲劇の原因なのだろう。
まったく別の思考形態である、ということを前提にしていないというか、自分たちの常識の範囲から抜け出せなかったというか。

VIでは誰がミスチフに乗っ取られ、敵になっているのかが分からない…という、ちょっとしたホラー的展開になっている。
アイネイアとイサリの因縁は本当に重苦しいものになってしまった。
悲劇の立役者たるミヒルも、その背景を思うとどうしても憎み切れない存在だ。
ラゴス(キリアン)との別れのシーンはなんとも言えない。

ところで、Vの農家の話がここまでストーリーに食い込んでいるとは正直思っていなかった。
オムニフロラの怖さを暗示させるサイドストーリーだとばかり思っていた。
このシリーズ、本当に無駄がない。

VIで展開される物語はどれも手に汗握るものだ。
なかでも一番読み応えがあるのは第五章、シリーズ名を冠する「天冥の標」だろう。
敵対しながらも、解決策を探しながら交渉するブレイドとシュタンドーレの絆が熱い。
命がけの手さぐりで、なんとか先へ進もうとする描写には心が震える。
そして、妻たちの支えも忘れてはいけない。
夫を支えるアリカとエフェーミアの尽力なくしては、この二人の交流も築きあげられなかっただろう。
残念ながら悲しい結末になってしまったが、彼らの希望、「小さな一つの道しるべ」は、きっとメララが背負っていってくれる。



「天冥の標V 羊と猿と百掬の銀河」小川一水





これまでの物語で断片的に語られていた、ダダーのノルルスカインとミスチフの正体、そしてすべての始まりが語られる。

いやはや、とんでもなくスケールが大きい。
しかもその途方もないスケールの大きさを、読み進めていくとなんとなく実感できてしまう、というのがすごい。
タイトルの「掬」とは手ですくう、という意味なのだそうだ。つまり、「百掬の銀河」とは銀河を百回掬う、ということになるのだろうか。

被展開体、特にノルルスカインの在り方が興味深い。
各ストリームは同じ「ノルルスカイン」というアイデンティティを持つが、それぞれ個性を持っている。
同一個体というよりかは一つの種族、と捉える方がいいだろう。
IIIでフェオドールのストリームを失った時に残念がっていたのは、全く同一の存在は造り出せないからだったのか。

ノルルスカインとオムニフロラの在り方は対立している。
個性を尊ぶノルルスカインと、全て同一の存在に塗りつぶすオムニフロラ。
IVの『混爾』と『不宥順』の概念は、これを暗喩しているのだろうか?


一方、並行して進む小惑星農夫の話もこれまた面白い。
小惑星ならではの農法とか、遺伝子改良失敗の悲劇とか、治安の悪化が流通に与える影響とか、一つの作品として十分に成り立つものだ。

各巻で趣向をガラッと変えながら進む、このシリーズの行き先が楽しみ。

「この空のまもり」芝村裕吏





主人公がちょっと有能すぎるというか…いわゆる主人公補正が強すぎるように感じた。
おかげで、主人公の悩みや成長が薄っぺらく見えてしまう。
もう少し主人公の能力を抑えて、水面下であがきつつもネットでは優雅にふるまう…みたいな描写だったら、終盤の展開にカタルシスを感じられたかも。

「魔女と金魚」中島桃果子





魔法のある世界で占いで生計を立てている魔女が、仕事や恋に悩む物語。

小物や魔法の描写は丁寧でファンタジックに書かれているし、世界構成も好みだった。
残念なのは文章が少々拙く、時に薄っぺらく感じてしまうところ。
登場人物も現代のOLやその恋人と特に変わらず、ファンタジーとして書かれている意味が感じられない。


「あなたの人生の物語」テッド・チャン(浅倉久志他)





SF短編集。
どの作品も世界観の作りこみがすごく、引き込まれてしまう。



「銅の魚」仁木悦子


銅の魚 (角川文庫 (5643))


ミステリー短編集。

派手な展開や驚くようなトリックはないが、まとまりが良く読みやすい。
「二人の昌江」のネガフィルムトリックはこの時代ならでは。


「Xの悲劇」エラリー・クイーン(鮎川信夫)





言わずと知れたエラリー・クイーンの名作である。

引退したシェークスピア劇俳優が探偵であり、彼の存在が物語を通して荘厳な雰囲気を醸し出している。
ストーリーは、裁判シーンなどの盛り上がりを見せながら、無駄なく着実に進んでいく。
そして終盤では華麗な謎解きに驚嘆し、いくつも張られていた伏線に感心する。

この小説は緻密な構成と大胆なトリックで楽しませてくれるのが、もっとも特徴的なのが「ダイイング・メッセージ」である。
中盤で語られるそれは、なかなか正体を現さないのだが――最後の一文が鮮やかな印象を残してくれた。


「インディゴの夜」加藤実秋




本業はライター、副業はホストクラブの女性オーナーである高原晶が事件を解決する、連作ミステリー。

表題作は構成も練りこまれ、犯人の繊細な動機がほろ苦い余韻を残す、いい作品である。

ただ、それ以降の三作は若干毛色が変わり、少年(ではないが)探偵団の冒険活劇、といった印象を受けた。
姉御肌の主人公と、謎めいた敏腕マネージャー、そこそこ個性のある犬っぽいホスト達がそれぞれ役割を果たし、事件を解決する。
登場人物は多少ひねくれていても実はいい奴で、黒幕は絵にかいたような悪役だ。
最後は大立ち回りを演じて悪役は逮捕され、被害を受けた女性や子供は前向きに立ち直る。

要は、働く大人の女性向けのドリーム小説なのだ。
仕事のストレス発散には、こういう軽快で楽しいエンターテイメントが一番向いているのだろう。


「代書屋ミクラ」松崎有理





「出すか出されるか法」――三年以内に一定水準の論文を発表できない研究者はクビになる、という法律が施行された世界。
主人公は先輩に誘われ、研究者の論文を代筆する「代書屋」を開業する。

理系の研究室に関わったものなら誰もがうなずくようなリアルさと、主人公の脳内神などのシュールさが合わさって、独特な文章になっている。
理系に縁のない人には、馴染みのない単語が多いだろうから、もっと奇妙な世界に見えていそうだ。
残念ながら、主人公の脳内神やら店主の妙な唄やらは肌に合わなかった。
あと、オリジナリティに欠ける詩がちらほら見受けられるのも気になる。

出てくる登場人物は個性的だが、理系研究者を取りまく状況はかなり現実的だ。
現代の研究は、「役に立つ」「結果を残す」という鎖に縛られている。そうでなければ研究費が捻出できない。
「出すか出されるか法」なんて現実にはないけど、結果を出せない研究者は居場所がなくなっていく。
現実をわかりやすく描写してくれる、いいギミックだ。

どんな研究であれ、「世間にこのように役に立ちます」と標榜しなければ傍流に追いやられる。
私も、「(ものすごく基礎的な研究で病気との因果関係はあまりないけど、たぶん)癌研究の役に立ちます」などと言っていた。
今は再生医療や抗体医薬がトレンドだろうか?

もちろん、「研究は純粋に知的好奇心を満たすためだけに行うべきで、利潤を追うのは不純だ」などとは毛頭思わない。
世のため人のために何かできるのは、やっぱり嬉しいものだ。
それでも、もう少し「役に立たない」研究に光が当たってもいいと思う。
「さいごの課題」の依頼人に、安心して学生がついていける世界になればいいのに。



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管理者:dusk

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