忍者ブログ
Home > 記事一覧

写本師の穴蔵

本の感想などを書き溜めています。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「天冥の標IV 機械じかけの子息たち」小川一水





IIIから数年後、人間に性愛奉仕するアンドロイドである<<恋人たち>>の物語。
キリアンとアウローラは理想的な性交『混爾』を模索し、試行錯誤する。

とにかく全体を通して、これでもか、と書きつくされた二人の行為が圧巻。
ここまで徹底的に二人の行為を掘り下げた作品もなかなか無いだろう。
なにもここまで書かなくても…と思わなくもないが、ここまで書きつくしたからこそ、最後に二人が到達した答えの哀しさが際立つのだろう。

ところで、物理的に複数の人格を統合させる『不宥順』についてラゴスが出した結論には、
いわゆる人類補完計画を思い出した。
人類補完計画的な概念は多数の作品にでてくるが、"『不宥順』に『混爾』を求めてはいけない"というのは結論が端的に表されてて良い。
昔のライトノベル、「MAZE☆爆熱時空」も思い出したが…あれは作風のせいでかなり明るい結論を出していたなあ。



「天冥の標III アウレーリア一統」小川一水





アクリラの先祖、<<酸素いらず>>の一族であるアダムスの物語。

宇宙船を使った本格的な戦いで、SFといって一般の人が想像するのはこういうものではないだろうか。
真空でも活動できる<<酸素いらず>>の戦い方や、彼らが生まれたわけ、独自の文化などがきちんと構成されていて面白い。
Iでも描かれていたが、<<酸素いらず>>の気風のいい性格が魅力的だ。

ストーリー全体の要である救世群は、IIから三百年たっても不遇な状況は変わらない。
千茅と圭伍の因果はグレアとジュノに受け継がれていく。

本作では、ストーリーの重要な背景の一端が明かされる。
謎めいた存在のダダーと、伏線として暗示されてきた黒幕的存在の由来が少しだけ語られ、次巻につながっていく。
まだまだ謎が多く、続きが気になる作品。

「天冥の標II 救世群」小川一水




前作から800年ほど遡り、すべての発端となるストーリーが描かれる。

中世を模した世界での革命とはうって変わって、現代で巻き起こるパンデミックの物語だ。
感染したら高確率で死亡し、生き残ってもウイルス保持者となってしまうため、生涯隔離される。

パンデミックへの対処の描き方に非常にリアリティがある。
特に「P-4(名目3)」の注意書きなど、バイオセイフティーレベルの取り扱いが現実に即していると感じる。
ちなみに、バイオセイフティーレベルとは、どれだけ危険性のある微生物やウイルスなどを扱う施設なのかを示す指標のこと。
なお、日本ではレベル4の施設は2か所ほど存在するが、現在では近隣住民の反対によりレベル3での運用のみ行われている。

患者群への非合理的な対応も、また現実味を伴って胸に迫ってくる。
千茅の親友となった青葉も、施設を出た後は手を洗ってしまう。施設のウイルス封じ込めが不完全なら、そんなことしても何の意味もない。
専門家である華奈子も、「穢れ」の観念を口にする。つかみどころのない感情を、非常に的確に表した言葉だ。

度し難い人間の業が、必然と言ってもいい物語を展開する。
この物語が、どのように「メニー・メニー・シープ」につながっていくか楽しみ。



「天冥の標I メニー・メニー・シープ」小川一水





植民惑星メニー・メニー・シープを舞台にしたSF。

電気を酸素代りにエネルギー源として使う一族や、電気仕掛けの羊、アンドロイドなど、いかにもSFといったギミックが登場する。
異種族同士の交流や、アンドロイドの自己表現、虐げられていたものの覚醒、仲間の屍を乗り越えながら闘う姿…などが、非常に熱くしっかりと描かれている。
正直、この上下巻のみで物語が完成されてもおかしくないくらいだ。
…と思って読んでいたら、最後でひっくり返されてしまった。
今まで読んできたものは、壮大な叙事詩のプロローグに過ぎなかったようだ。

壮大な物語では、ともすれば個々のキャラクターは簡略化されがちだ。、
この作者はきっちりと一人一人の登場人物を肉付けしているので、感情移入し、物語に没頭してしまう。
しかし、その登場人物たちに容赦はされない。彼らの苦悶、葛藤、悲哀を飲みこんで、ストーリーは進んでいく。
全10巻を予定したシリーズだそうで、是非最後まで見届けたいところ。


「ひとつ火の粉の雪の中」秋田禎信




秋田禎信氏のデビュー作、「ひとつ火の粉の雪の中」が復刊。
書き下ろしの掌篇収録とのことで楽しみにしていたが、本編がかなり改稿されていて驚いた。
書いた作品にはあまり手をいれない方だとばかり思っていたので。



「密室から黒猫を取り出す方法」北山猛邦





ひきこもりがちで気弱な探偵、音野順シリーズ二作目。


「密室から黒猫を取り出す方法」
完全犯罪を目論み、密室を作りだしたが、部屋の中に黒猫がはいってしまい…。
猫一匹にふりまわされる犯人が滑稽。

「人喰いテレビ」
ペンションで起こった殺人事件。目撃者によると、被害者はテレビに喰われてしまったという。
UFO研という、かなりアクの強い団体が登場。
ラストシーンに笑い転げた。

「音楽は凶器じゃない」
六年前に高校の音楽室で起こった強盗事件を探る。
このトリックってそこまで上手くいくのかな?証拠がいろいろと残りそうに感じるし、警察が徹底的に洗えば露見しそうな気がする。

「停電から夜明けまで」
ある兄弟が、遺産相続のために血のつながらない父を殺害しようとする。
"見えているからこそ、見えるはずのものが見えない"というトリックが鮮やかで好み。

「クローズド・キャンドル」
おびただしい蝋燭がある部屋で自殺した男。名探偵を名乗る琴宮が、殺人事件であると主張する。
音野と正反対の性格である琴宮が面白い。また再登場しそう。





「踊るジョーカー」北山猛邦





気弱でひきこもりがちな探偵、音野順が、友人の推理作家白瀬白夜に引っ張られ、事件を解決する短編集。
軽快なテンポとコミカルな展開で、でもトリックは本格という面白い作品。

登場人物もあくが強めで、岩飛、笛有(ふえあり)、高庭といったペンギンのような名前の刑事たちが出てくる。
そういえば「しらせ」は南極観測船だった。


「踊るジョーカー」
無数のトランプが散らばった部屋で起きた密室殺人。
手品のようなトリックが面白い。

「時間泥棒」
屋敷中の時計が少しずつ盗まれる事件。盗んだ理由がシンプルで展開もまとまりがよく、好きな作品。

「見えないダイイング・メッセージ」
殺された社長の金庫の解錠番号を、被害者が死に際に撮ったポラロイド写真を手掛かりに推理する。
ダイイング・メッセージはともすれば不自然になりがちだが、この作品ではメッセージを残した理由を明確に書いている。

「毒入りバレンタイン・チョコ」
女子大生が毒入りチョコを口にしてしまう。
正直かなり危ういトリックではないだろうか。危うさの理由も一応動機にかかわってはいるが…

「ゆきだるまが殺しにやってくる」
大富豪の娘と結婚する条件は、もっとも優れたゆきだるまを作ること。
ゆきだるま作り競争中に、参加者の一人が殺される。
光景を想像すると笑いが込み上げてきた。
作中に乱舞する「ゆきだるま」の文字が、そのシュールさに拍車をかける。
タイトルも含め、この本の中では一番ツボな短編。



「百万ドルをとり返せ!」ジェフリー・アーチャー(永井淳)




投資詐欺にあって無一文になった四人の男が、巻き上げられた金を取り戻すために奮闘するコメディ。

原題 " NOT A PENY MORE, NOT A PENNY LESS " 通り、損した分と同じ額を取り戻すべく、綿密な計画をたてるのだが…様々なアクシデントが起こり、なかなか面白い展開になる。

綿密な計画、と書いたが、作戦自体はコントみたいで想像すると笑いがこみあげてくる。
テンポ良く進む展開とラストのどんでん返しが、文句なく楽しめる一冊。


「地獄番 鬼蜘蛛日誌」斎樹真琴





人の業や情念をもの凄い筆力で描いた作品。

怒りや憎しみ、嫉妬など、生きている限り負の感情はわき起こる。
生きている間は理性で押さえていたその感情が、死んだことによって解放されると鬼になってしまうのだろう。
人に罰を与えるのは、かつて人であったもの、という設定も非常に業が深く感じる。

この作品世界では、極楽に行ける人はほとんどいないのではないだろうか。
心から誰も憎まず、誰にも憎まれず生きるのは非常に難しい。
亡者は責め苦を受け続け、やがて解放されるが、鬼となったものが救われるにはもっと複雑な手間がいる、というのが面白い。

鬼蜘蛛の地獄での生活と、生前の地獄のような人生と対比して、「空の青さ」で表される本当の救い――解脱がすごくすがすがしい。

人の魂を救うというのは、それはそれはもの凄く大変なのだなあ、という読後感だった。


「レディ・ガンナーと宝石泥棒」茅田砂胡




祝典参加のためローム王国に出向いたキャサリンは、駆け落ち騒動と宝石盗難事件に巻き込まれる。

ミュリエルとアンジェラが活躍し、四人組の影が薄い。
特にケイティはリーダー格なのに、いまいちパッとした活躍がない印象である。

ダムーはキャサリンといい感じになりそうだったり、ミュリエルに好かれたりなど、恋愛面が結構推されてる。
アクション面でも活躍が多い。
ベラフォードは見た目が派手でキャラも濃く、騒動の発端になったりする。
ヴィンセントはエピソード中、一回は変身する。それ以外は目立たないが、とにかく変身することで状況が変わる切り札的存在だ。

ケイティがキャサリンの姉貴分みたいな存在になればよかったんだろうが、アンジェラとベラがその役を担っているので、いまさら…という感じである。

ところで、この表紙の絵が非常に好みだ。
角川文庫で復刊された第一作目は、表紙が変わってしまって非常に残念。


Ad

インフォメーション

管理者:dusk

PR

PR